研究概要 |
南米産矢毒蛙の皮膚抽出物中には200種を越えるアルカロイドが含まれており,これらは神経毒性などの顕著な特異的生理作用を示す。これらのアルカロイドは純粋物質が天然より極微量しか得られないため,化学合成による試料供給が強く望まれている。 以上の観点から,著者らはこれまで矢毒蛙アルカロイドのキラル合成を行ってきているが,本研究は、これらの研究の一環として行ったものである。 本研究の標的化合物としては,デカヒドロキノリン型アルカロイドである(ー)一プミリオトキシンC(1)を選び,新規な手法によるキラル全合成の達成を目的とした。すなわち,Lーグルタミン酸より出発し,9工程を経て1,3ーヘキサジエン側鎖を持つキラルなヒドロキサム酸を合成した。次いで本化合物を過ヨウ素酸アンモニウム塩で処理してNーアシルニトロソ化合物に変えると,直ちに分子内ヘテロディ-ルス・アルダ-反応が進行してオキサジノラクタム体(2)を立体選択的に与えた。化合物(2)を接解還元後,臭化プロピルマグネシウムを反応させ,次いでシマノ水素化ホウ素ナトリウムで還元することにより,オキサジノラクタム環に立体選択的にプロピル側鎖を導入することができた。引き続き,NーO結合を還元的に開裂して1,4,5ー置換ピペリジン体(3)としたのち,ケント体(4)へ導いた。化合物(4)につき種々の塩基を用いて閉還反応を試みたところ,t-ブトキシカリを用いる条件が適当であると判明した。 以上により,デカヒドロキノリン環の構築が完了したので残る問題は6位のオキソ基を還元的に除去する工程のみとなった。これについては現在常法による脱オキソ化を検討中であり,近く(ー)ープミリオトキシンCの不斉全合成を完了する予定である。
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