研究概要 |
抗生物質グラミシジンS,cyclo(ーValーOrnーLeuー_DーPheーProー)_2,は種々の生体膜の透過性を増大するが,その作用発現にはこのペプチドがβシ-ト構造をとり,塩基性のオルニチン残基と疎水性のアミノ酸残基が反対方向に向く両親媒性構造が重要であることが指摘されていた。ところが我々は,塩基性アミノ酸残基をもたないグラミシジンSアナログ,cyclo(ーValーAlaーLeuー△PheーProー)_2(△Pheはα,βーテヒドロフェニルアラニンを表している),にも生体膜の透過性を増大する作用があることを見いだした。ヒト赤血球の形態変化を観察してみると,グラミシジンSはコンペイト-状のエキノサイト型を誘起したのに対し,アナログはカップ状のスタマトサイト型を誘起した。エキノサイト型は膜脂質二重層の外層部へのペプチドの蓄積,スタマトサイト型は内層部への蓄積によって引き起こされていると考えられ,我々はそのようなアンバランスな蓄積が膜構造を不安定化し,結果的に膜破壊を導いたものと考えた。ところで,赤血球がエキノサイト型あるいはスタマトサイト型に変形すると細胞外部あるいは内部ヘベシクル遊離が起こることが電子顕微鏡により観察されている。細胞外へのベシクル遊離は細胞とベシクルが遠心分離で簡単に分別できたことから化学的にも分析可能であるが,細胞内への遊離はその分離が因難なため直接的な観察以外には分析は難しいとされていた。我々はベシクルのサイズが比較的大きいことから,ベシクル内には外液中に溶解させておいたマ-カ-がトラップされると予想し,その取り込みから細胞内ベシクル遊離を評価しようと考えた。マ-カ-はイオン選択性電極により検出可能なテトラエチルアンモニウムイオンを選んだ。その結果,スタマトサイト型変形のときのみこのマ-カ-がトラップされ,この方法は細胞内へのベシクル遊離の新しい測定法になることがわかった。
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