タンパク質工学により新機能を持ったタンパク質を理論的かつ合目的的に作り出すことを目指して、野生型及び変異型(Asp102->Asn)のセリンプロテア-ゼについて分子動力学による研究を行い、次の結果が得られた。 1.セリンプロテ-ゼの反応経路の内、反応中間体として捕らえられているアシル酵素の分子動力学シミュレ-ションを行うために、アシル部分の分子力場パラメ-タを作成した。作成したパラメ-タは、ab initio分子軌道計算から得られたポテンシャル曲線及び振動解析結果を良く再現した。 2.野生型のアシル-セリンプロテア-ゼの分子動力学計算を行い、活性部位のアミノ酸残基の動きを解析した。ここで注目しているAsp102は、シミュレ-ション時にHis57のNδ1Hと主に直線型の水素結合を形成するが、0δ1と0δ2が共に参加する分岐型の水素結合の形成も時々観察された。この結果は、触媒として反応に直接参加するHis57の側鎖が、Asp102によって固定されるがある程度の許容範囲で動きうることを示していおり、反応に側鎖の動きが重要であることが示された。 3.野生型のX腺結晶解析の座標を基にして、Aspの構造及びパラメ-タをAsnに変え、エネルギ-極小化を行い変異型酵素を作成した。エネルギ-的に安定な構造では、Asn102のNδHがHis57のNδ1及びSer214の0γと水素結合を形成しており、実験的に推定された構造に一致した。 4.野生型と変異型の自由エネルギ-差が、どの程度の信頼性を持って熱力学摂動法によって評価できるかを、Aspに対する簡単なモデル化合物であるギ酸及び酢酸を用いて検討した。水和エネルギ-差は、数kcal/molの差で実験値を再現するが、更に精度を上げるには、長時間のシミュレ-ションが必要であることが結論された。
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