本研究はグラム陰性病原細菌の生産するセファロスポリナ-ゼ型βーラクタマ-ゼの活性中心構造と重要な機能アミノ酸残基の役割を解明し、βーラクタマ-ゼに対抗する新規βーラクタム抗生剤およびβーラクタマ-ゼ阻害剤のデザインに資することを目的としている.Citrobacter freundiiの染色体支配セファロスポリナ-ゼ型βーラクタマ-ゼを研究対象とした.最初に、染色体DNAよりβーラクタマ-ゼ遺伝子をクロ-ニングし、その塩基配列より酵素アミノ酸一次配列(361アミノ酸)を決定した.次いでSerー64が触媒中心であることを明らかにした.アミノ酸一次配列の明らかにされた他のβーラクタマ-ゼとの相互比較から、活性中心空間を構成し、酵素触媒反応および基質特異性に関与すると推測されるアミノ残基を部位特異的変異導入法により他アミノ酸に置換した.得られた変異酵素の触媒活性、基質特異性等の酵素化学的解析から、触媒中心Serー64に3次元的に近接すると推測されるLysー67、Tyrー150、Lysー315などの酵素触媒反応過程での役割がほぼ明らかにされた.更に、基質(βーラクタム抗生剤)の結合する活性中心ポケットの淵に局在し、触媒反応には直接関与せず、また基質との直接的相互作用の無いと考えられるAspー217、Gluー219部位の変異により基質特異性が著しく変化することを発見した.この部位の1アミノ酸変異によりセファロスポリナ-ゼは多くのβーラクタマ-ゼに分解され難いオキシ・イミノ系セフアロスポリン剤に対し分解活性を獲得する.しかし、セファマイシン母核を持つセフアロスポリン剤は殆ど分解出来なかった.以上の研究成果はセファロスポリナ-ゼ型βーラクタマ-ゼの活性中心の分子レベルでの理解と、今後の耐性菌に対抗するセフアロスポリン剤のデザインに貢献すると考えられる.
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