研究概要 |
メナジオンを0.2〜0.3mM加えた栄養培地で大腸菌を増殖させると,はじめ増残はおさえらているが,3〜6時間後に増殖が見られた。この細胞を対数増殖後期で集菌し,フレンチ・プレスで菌を破壊した後,細胞膜分画と細胞質分画に分離した。これらの分画のメナジオン還元酵素を分析した所,細胞質分画にFMN依存でHADHに特異的なキノン還元酵素がメナジオンを加えずに増殖させた細胞に比較して,20倍以上増加している事を発見した。メナジオンは細胞内で一電子還元されると大量の活性酸素を発生するが、同様に活性酸素を発生するパラコ-トによってこの酵素は誘導されず,メナジオンに特異的であった。そこで,メナジオン存在下に増殖させた大腸菌から本酵素の分離・精製を進めた。精製酵素はSDS-電気泳動で24KDaであった。反応はNADHに特異的で,補酵素としてFMNを要求した。キノン化合物に対する特異性は動物細胞で知られているNAD(P)H-キノン還元酵素(DT-diaphorase)とほぼ一致した。本酵素はDT-diaphoraseの特異的阻害剤であるジクマロ-ルによって強く阻害され,阻害形式はNADHに対して競合的であった。また,キノンの還元様式は二電子還元型であった。 大腸菌においてメナジオンで誘導されるNADH-キノン還元酵素はメナジオンを二電子還元する事から,一電子還元による活性酵素の生成を抑制するので,メナジオン毒性を軽減するための応答と考えられる。動物の場合にも,DT-diaphoraseは誘導酵素であり,きわめて類似した生理的応答と言える。興味深い事に、本酵素はNADHに特異的でFMN依存であるのが動物細胞のDT-diaphoraseと異なるにもかかわらず,分子量,キノン化合物に対する基質特異性,ジクマロ-ル感受性,キノン還元様式でDT-diaphoraseと一致していた。現在,大腸菌をモデルとして本酵素の誘導機構の解析を進めている。
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