研究概要 |
前年度の研究で、大腸菌を0.2ー0.3mMの2ーメチルナフトキノン(メナジオン)存在下に増殖させると、細胞質分画にNADHに特異的で反応にFMNを要求するキノン還元酵素が誘導される事を見いだした。本年度は本酵素を細胞質分画からDEAEーSephacel,高速液体クロマト用カラムDEAEー5PWおよびHACー5CPで精製を進め、140倍(比活性3205units/mg protein)に精製した。メナジオンで誘導しない細胞の細胞質の比活性と比較すると、約4000倍に精製された。精製酵素はSDSーゲル電気泳動で分子量約24KDaの単一蛋白質で、SephacrylSー200によるゲル瀘過では活性が50kDaの所に溶出されるので、活性型酵素は同一サブユニットの2量体と考えられる。フラビン要求性は半飽和濃度で比較すると、FMN0.54μM,FAD16.5μMで、FMNはFADより約30倍効果的であった。キノン化合物に対する基質特異性はナフトキノン、ベンゾキノン誘導体に高い活性を示し、動物細胞から分離・精製されているNAD(P)Hーquinone reductase(DTーdiaphorase)の基質特異性とほぼ一致した。本酵素の反応機構はピンポン型で、NADHおよびメナジオンに対する真のKm値は132μMおよび1.96μMであった。ジクマロ-ルはNADHに対して拮抗的に阻害し、Kiは0.22μMであった。キノンの還元様式は2電子還元によってキノ-ルを生成した。これらの酵素的性質は動物細胞のDTーdiaphoraseと極めて類似しており、大腸菌における本酵素の誘導は動物細胞におけるDTーdiaphoraseと生理的にも同様の意味を持つと考えられる。しかし、本酵素の誘導に必要な化合物の構造特異性を調べると、動物細胞で有効とされている多くの化合物は大腸菌の酵素誘導には2、3の例外を除いて無効であり、誘導シグナルについて相違が確認された。大腸菌での誘導基質として、キノン構造の2位にアルキル基が存在し、3位に置換基の無い構造が最も重要と考えられる。
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