マウスに四塩化炭素を投与すると肝障害が惹起され、血清GOT、GPT活性は処置後24時間で著しく上昇し、以後速やかに低下した。一方、障害肝のDNA合成は処置後36時間で上昇し始め、48時間でピ-クとなり以後ゆるやかに低下した。このような肝障害モデルマウスの血清中肝細胞増殖刺激活性は、処置後24時間で著明に上昇し以後速やかに低下した。また、肝臓中の肝細胞増殖刺激活性は四塩化炭素投与後12時間ですでに上昇し始め、24時間では正常値の約10倍に増加し、48時間でピ-クに達した。静止期にある細胞が増殖刺激を受けてからDNA合成を開始するまでには10数時間を要するので、四塩化炭素処置後24時間で上昇した血中並びに肝臓中の肝細胞増殖刺激活性が、48時間でピ-クとなる障害肝のCNA合成に重要な役割を果たしているものと推測される。次いで障害肝上清画分から、硫安分画、アフィゲルブル-、ヘパリン-セファロ-ス及びSーセファロ-スの各クロマトグラフィ-によって本活性因子(mHGF)を精製した。100匹のマウスの障害肝から約8μgの精製標品が得られ、活性の収率は21%、比活性は肝上清画分の約28万倍に上昇した。精製mHGFは、非還元のSDSーポリアクリルアミドゲル電気泳動で分子量7万6千の位置に単一のバンドを示し、これを還元すると6万2千と3万1千の2本のバンドに分れたことからジスルフィド結合したヘテロダイマ-から成ることが示された。mHGFは初代培養ラット肝細胞のDNA合成に対してヒト肝細胞増殖因子(hHGF)と同様な用量ー反応曲線を示し、その作用はEGFや酸性FGFとは相加的、インシュリンとは相乗的であったが、hHGFの作用をそれ以上は上昇させなかった。また、mHGFはhHGFと同様、加熱や還元剤及びトリプシン処理によって失活した。以上のことから、mHGFと類似しているが、その作用は抗hHGF抗体によって仰制されなかったことから、一次構造が異なるものと考えられる。
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