高次神経機能発現時の神経細胞において、種々の刺激に応答して、細胞の形態変化や遺伝子発現変化が引き起こされていることが指摘されている。この際、シナプス関連遺伝子の発現促進も起こり、シナプス連絡がより強化されていくものと考えられる。本研究では、突起伸長時の神経細胞における遺伝子発現制御系について、蛋白質リン酸化との関連で探ることを目的としている。 すでに、プロテインキナ-ゼ阻害剤H-7がマウスニュ-ロブラスト-マN18TG2、及び小脳の初代培養神経細胞の突起伸長を促進することを認めている。さらに、H-7処理により、SV40エンハンサ-活性変化及びcーJunの発現誘導の起こることを認めている。SV40エンハンサ-活性変化に対しては、エンハンサ-活性に抑制的に働くリン酸化DNA結合性蛋白質が重要な役割を果たしている可能性を、ゲルシフト法及びフットプリンティング法によって認めている。また、ニュ-ロンの性質をよく表現しているNG108-15を用いて、細胞内リン酸化レベルの変化に対応して発現変化を受ける遺伝子群の検索を、蛋白質の二次元電気泳動及びcDNAサブトラクション法等で検討しつつある。このような遺伝子群の中には、シナプス伝達に関わる遺伝子群の含まれる可能性がある。これとは別に、マウス脳における転写制御因子遺伝子の発現を出生後の発生を追って検討した。その結果、小脳において、出生後3週目を境に、Oct様蛋白質が減少しSpl様蛋白質が増加してくることを認めた。この変化は、大脳皮質では認められなかった。さらに最近、プラスミドDNAをマウス脳内へ直接注入して脳細胞に導入発現させることのできる方法を開発した。この方法は、今後、脳を遺伝子発現レベルから検討していく上で有効な手段を提供するものと考えられる。
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