研究概要 |
本年度は,神経伝達物質に対する神経細胞の遺伝的応答性を以下の2つの系を用いて解析した。 (1)培養神経細胞を用いた解析:ハイブリッド細胞NG108ー15に一連のコリン作働薬,アドレナリン作働薬あるいはブラジキニンを加えると,最初期転写因子遺伝子Egrー1の発現誘導が一過的に起こることを認めた。この発現誘導は,誘導後1時間で認められ,ホルスコリン添加によって顕著に抑えられた。一方,マウス小脳顆粒細胞の初代培養系にNMDAを加えた所,ゲル・シフトアッセイ法で,TRE(TPA responsive element)結合活性の増加が認められた。cーfos,cーjun mRNAの発現上昇も起こっていた。この変化は,アンタゴニスト添加で抑制された。 (2)マウス小脳発生系における解析:すでに私達は,小脳のプルキンエ細胞および海馬の錐体細胞の第一次樹状突起に存在する抗原を見い出している。この両細胞は,青斑核ニュ-ロンの投射を受けており,ノルアドレナリンの放出で分化が進む可能性が指摘されている。又,第一次樹状突起部は,下オリ-ブ核ニュ-ロンが投射している。現在,この遺伝子のcDNAクロ-ニング中である。一方,ゲル・シフトアッセイでいくつかのDNA結合蛋白質の活性変化を,マウス小脳の発達過程を追って調べた。その結果,オクタマ-結合活性およびGCーBox結合活性が小脳特異的に変化することを認めた。 以上の研究とは別に,リポフェクチンを用いたDNA直接注入法によるマウス小脳への外来遺伝子の導入を検討した。マウス小脳への遺伝子導入は可能であるが,導入効率は低い。一方,マウス大腿部へのリポフェクチンによる導入は,かなりの効率で可能であった。現在,その導入効率を上げる試みを行っている。この試みは,遺伝子療法への道を切り開くものである。
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