研究概要 |
カチオン性シアニン色素tri-S-C_4(5)の分子設計を行い、これらのミトコンドリアに対する特異的反応性の機構及び抗がん活性、光増感作用のメカニズムを細胞生化学的に解明することを目的とし、以下の知見を得た。 1.カチオン性シアニン色素tri-S-C_4(5)を中心に有効な構造因子を知るために、まずアルキル鎖長を変化させた誘導体について、ミトコンドリアに対す影響をみた。〈計画1),5)〉 2.単離方法の確立されていないAH-130腹水癌細胞からのミトコンドリアの単離を検討した結果、ジキトニン処理による方法が最良であることを見い出した。光の非照射下においてtri-S-C_4(5)は、このミトコンドリアのATP合成阻害活性を正常のミトコンドリアに対するそれの約半分の濃度で示し、癌細胞ミトコンドリアに対する優位性を持つことを明かにした。また正常細胞で明かにしたミトコンドリアのADP/ATP透過担体に対するこれらの色素の関与を癌細胞でも検討中である〈計画2),3)〉 3.またAH-130細胞(5×10^8cells)に対して25μMtri-S-C_4(5)を作用させ、取込み量の10分間での経時変化を調べた結果、tri-S-C_4(5)は時間依存的に取込まれることが分かった。さらに脱共役剤SF-6847の前投与によるtri-S-C_4(5)の取込み阻害は、濃度依存的であった。この結果より、tri-S-C_4(5)は非エネルギ-下状態の細胞もしくは死細胞に対し細胞膜から脱離していくことが示唆された。〈計画4)〉 4.以上の結果から、tri-S-C_4(5)は癌細胞に対して親和性を持ち、正常細胞のミトコンドリアより低濃度でATP合成を阻害することが分かった。またエネルギ-下状態により、細胞に対する結合性が変化してゆくことも明かとなった。今後これらの成果に基づいて、カチオン性シアニン色素の光増感作用と抗がん活性のメカニズムについて、さらに詳細に検討を加え、新しい機能をもった抗がん剤を開発するつもりである。
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