経口投与薬物の血液中濃度持続化に関しては、頻回投与のほか薬物の放出制御を考慮した製剤の開発が試みられ、すでに実用化された製剤もある。しかしながら、このような製剤はその製造過程が複雑である上、服用後食物あるいは生理的条件の影響を受け易く、血液中濃度の維持が必ずしも容易とはいえない。本研究では、腸内細菌による代謝を利用する観点から、薬物に化学的修飾を施したプロドラッグを対象として、それらの生体内挙動に関する知見を集積し、より効率的に薬理活性を持つ親薬物の血液中濃度を持続化する方法を開発することを目的とする。 モデルプロドラッグとしてサリチル尿酸(サリチル酸グリシン抱合体)を用いた。1.すでに報告したラット、家兎での検討に加えて、種差について明らかにするために、犬で検討を行った。サリチル尿酸を直腸投与したところ、投与直後より血液中にサリチル酸が検出されはじめ、3時間目より一定した血液中濃度が9時間持続した。同様の結果は、ラット、家兎でも認められた。2.腸内細菌の構成は、宿主の生理、外来菌、食物、薬物、気候などによって変動することが知られており、これらの要因は、腸内細菌によるサリチル尿酸からサリチル酸への変換にも影響を及ぼすものと考えられる。そこで生理的要因の一つとして絶食の影響について検討した。家兎にサリチル尿酸を経口投与した場合、絶食時間の影響がサリチル酸の血液中濃度に顕著に認められた。この原因として、家兎の食糞性による胃内容物排出速度の低下、それに伴うサリチル尿酸の脱グリシン活性部位(消化管下部)への到達遅延が考えられる。一方、サリチル尿酸を直腸投与した場合には、絶食の影響は現れなかった。これらの結果より、直腸投与は経口投与に比べ、環境要因の影響を受け難いことが明らかにされた。
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