我々は、これまで、多点電気化学的ずり応力測定法を開発使用してきたが、本年度は、これによって得られた測定結果と、文部省科学研究費補助金(一般C)の援助をうけて行った数値流体力学シミュレ-ションによる流れの直接計算の予備的な結果とを比較した。 本年度の研究においては三次元非定常の条件下の血流の数値流体力学シミュレ-ションを広範な生理的パラメタに対して実行し、動脈疾患がもたらす血流異常の三次元的構造を詳しく検討し、病変の発症、進展様式、さらにはその予防、治療における流体力学的な問題点を明かにし、病理所見、あるいは細胞生物学的所見と対比することを試みた。 検討した項目は次の通りである。 1.冠動脈等に発生する粥状硬化初期病変を忠実に模したものとして、流路の直径の1/2、1/4、1/20など数種類の高さを持ち、滑らかでかつ偏側性の発育を示す初期粥状動脈硬化斑(血管壁の一部膨隆)の数値計算モデルを開発した。 2.定常(入口流れ、完全発達流れ)および、非定常流れ(正弦波様の流速変動波形、血流を模した流速波形など)の場合の、上記のモデルにおける、壁ずり応力、局所圧力、壁ひずみなどの空間的分布の推定を行い従来得られている病理所見、あるいは細胞生物学的所見と対比した。 [結論] 以上の結果、数値流体力学シミュレ-ションは、生理流体力学、および、粥状動脈硬化症と血流の関連の病態生理学的研究に極めて有力な手段となることを見出した。
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