成人の前駆B細胞ALL48例を検索し、13例に骨髄球系抗原(CD13・33)の重複発現を認めた。13例の内、12例が塗抹標本・電顕でMPO(骨髄ペルオキシダ-ゼ)陰性であり、MPO・RNA陰性であった。13例中の1例は、新鮮細胞で不明瞭であったMPO発現が、株化細胞(Tahr87)では塗抹標本で認められた。成人前駆B細胞のCD13・33を重複発現する例のほぼ全例は、MPOについては、RNAレベルでも発現の無いことが分かった。例外的に希かも知れないが、Tahr87のようにMPOの完全な発現と前駆B細胞としての形質が共存し得ることも分った。 一方、T細胞ALL(ないしリンパ芽球リンパ腫)の18例の内、2例でCD13・33の重複発現を認めた。これら2例では、経過中にCD13・33抗原の発現増強があり、しかも初診時塗抹標本では認められなかったMPOを、極く小数(2〜400に1個)の細胞に認めるようになり、更に電顕では全細胞に確認され、当然、MPO・RNAも認めた。従って、T細胞ALLの場合は、CD13・33の重複発現する例では、MPOを発現する方が一般的である可能性が残った。 結局、電顕MPOが陰性でMPO・RNAを検出できた症例は無かったが、試験管内で適切な誘導条件(サイトカインなど)を与えた上で、発現される場合、それでも発現されない場合を区別する必要がある。種々のサイトカインを調べた結果、γIFNが、MPO発現をRNAレベルで発現抑制することが判明した。γIFNは、発現調節機構が十分には分かっていないMPOについて初めて判明した発現抑制シグナルである。一方、発現昂進シグナルは種々の実験にも拘わらず、未だに検索途上である。以上、急性未分化白血病の形質分類上でMPO遺伝子発現検索の有意性は十分に明らかにされた。
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