ヒト血液中のリポ蛋白の構成成分であるアポリポ蛋白(以下アポ蛋白)のうち、アポ蛋白Hについてはその生物学的活性はほとんど知られていない。われわれは高VLDL血症の患者血液中のVLDLから精製したアポ蛋白Hが溶血活性を有していることを発見したが、同様な現象が正常人血清中に遊離の形で存在するアポ蛋白Hにも見出し得るか否かを知るために、超遠心法、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィ-にて精製したアポ蛋白Hを用いて実験を行なった。その結果、ヒト、マウス、ヒツジ等の赤血球を溶血する作用は見出し得なかった。そこで、アポ蛋白Hが40〜50%程度の糖鎖を有していることに着目し、ノイラミニダ-ゼ処理前後での溶血作用の違いを観察した。しかし、高脂血症患者から得られたアポ蛋白Hは酵素処理後でも溶血活性が認められ、少なくとも 糖鎖先端のシアル酸の影響によるものではないと推定された。 また、アポ蛋白Hでの溶血様式を知るため、ヘモグロビンおよびカリウムイオンの溶出の過程をアポ蛋白H添加後から時間を追って観察した。その結果、カリウムイオンが先に溶出し、遅れてヘモグロビンが溶出するパタ-ンを呈し、ストレプトリジンO(SLO)の溶血様式とは異なるもので、ストレプトリジンS(SLS)の様式に類似したパタ-ンを呈した。このことはSLOの様に赤血球膜の二重層に直接侵入するのではなく、膜に附着したアポ蛋白Hの為に透過性が変化したための現象と考えられる。リンパ球を用いたリポ蛋白レセプタ-からのリポ蛋白の取込み実験でのアポ蛋白H添加の影響をみた場合も、リンパ球の凝集という形で観察され、結果的にはリポ蛋白取込みの低下へとつながった。 以上のことから、アポ蛋白Hの細胞膜への関与の様式が少し解明されたものと考えられるので、今後さらにこの点を追求したい。
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