研究概要 |
本研究では,サルを用い,脳虚血による海馬CA1錐体細胞の選択的破壊モデル動物の作製を目的とした。1.術式および脳虚血方法の開発:ハロ-セン麻酔下でサルの両側総頸動脈および椎骨動脈の4カ所,あるいはさらに両側の外頸および内頸動脈を加えた計8カ所の血流遮断を試みた。2.脳血流遮断時間の最適化:血流遮断時間と海馬CA1領域の選択的神経細胞壊死との相関関係を明らかにするため,上記の方法により,動脈4本の閉塞では,サル2頭を5分間および2頭を10分間血流遮断した。動脈8本の閉塞では,サル3頭を10分間,2頭を13分間,2頭を15分間および1頭を18分間血流遮断した。3.組織学的検索:脳虚血後5日目に脳を潅流固定し,パラフィン包埋法により組織学的検索を行った。動脈4本の5分間血流遮断では,脳内に虚血性細胞壊死は認められず,大脳皮質のV,VI層および線条体に軽度のグリア細胞の増加が見られた。動脈4本および8本の10分間血流遮断では,海馬CA1領域の錐体細胞の約1/3に,また,動脈8本の13分間および15分間血流遮断では,海馬CA1領域の錐体細胞の1/2〜1/3にわたって神経細胞壊死が見られた。また,これらの脳虚血では脳全体に軽度のグリア細胞の増加,および大脳皮質III,V,IV,線条体,扁桃体などで,神経細胞に軽度の空胞化や細胞体の萎縮が認められた。動脈8本の18分間血流遮断では,海馬CA1領域ではすべての領域で細胞壊死が見られた。しかし,海馬以外にも線条体,大脳皮質のIII,V,およびVI層にも細胞壊死が認められた。これらの結果から動脈8本の13〜15分間血流遮断が最適な条件であると考えられる。現在さらに,動脈8本の10分および15分間血流遮断したサル4頭を用いて,海馬CA1領域の障害による記憶障害を解析中である。遅延非標本合わせという再認テストを用いると,これらのサルでは遅延時間が60秒で正答率が約80%,300秒で約70%と低下することが確認された。
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