我々は一般的な遺伝子増幅のスクリ-ニング法である高感度In-gel renaturation(In-gel)法を開発した。本法を用いて白人の卵巣癌について遺伝子増幅のスクリ-ニングを行ったところ、7例中2例にK-ras遺伝子増幅を認め、うち1例はK-rasとc-mycのcoamplificationであった。また遺伝子増幅の見られた例はいずれも低分化型癌であった。 更に、本邦における卵巣癌32例42検体を集め、In-gel法による遺伝子増幅のスクリ-ニングとc-、N-、L-myc遺伝子、K-、H-、N-ras遺伝子、neu遺伝子の増幅と発現異常の検索を行った。その結果以下のことが明らかとなった。 1.漿液性嚢胞線腫傷系にのみc-myc遺伝の発現上昇(37%)あるいは増幅(発現上昇の見られた9例10検体中1例2検体)が見られた。しかし、明細胞癌、卵黄嚢癌ではむしろ発現低下が見られた。これらから、c-myc遺伝子の変化は卵巣癌の組織特異性に関連していることが示唆された。 2.Low malignant potentialの1例にc-mycの発現上昇を認めた。これは卵巣癌の発癌過程の初期からc-mycの発現異常が存在することを示しており、今後更に症例を重ねてその臨床的意義について考察して行く。 3.どの症例もras遺伝子群の増幅、K-ras遺伝子の点突然変異neu遺伝子の発現異常のいずれも認めなかった。In-gel法によるスクリ-ニングで10倍以上の、その他の遺伝子増幅も見いだしていない。以上から卵巣癌における癌遺伝子の活性化に人種差のあることも明らかとなった。
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