結晶からのX線の回折現象は、結晶が完全な場合は動力学回析理論で、不完全な場合は運動学回折理論で説明されている。実在結晶の多くは不完全結晶と考えられるが、ある程度完全性も兼ね備えているで、運動学理論をそのまま適用できない。このため測定された積分反射強度に、結晶の完全度に依存した消衰補正が施されている。しかし、その補正法は半経験的で厳密なものとは言えない。最近、我国のN.Katoによって、上の二つの理論を含む、“統計的動力学回折理論"と名付けられた。新しい理論が提案され注目されている。本研究では、この理論の妥当性を実験的に検討することを目的とした。 実験は、Siの無転位結晶に加熱によって微小な欠陥を多数導入し、X線の波長を連続的に変えながら、積分反射強度の変化を追跡した。 1.C_2-Siの平板(400〜500μm厚)結晶をアルゴン雰囲気中で、800〜1000℃、1〜250時間加熱して微小欠陥を導入した。2.二結晶法のロッキングカ-ブに観測されたHuang散乱から、欠陥は半径訳5000Åの格子間原子型クラスタ-である。3.波長変化に伴って見られるペンデルビ-トは、次の変化を示した。(1)ビ-トの位置が長波長側に移動した。(2)積分強度が増加した。(3)強度の増加は、長波長側程顕著であった。(4)ビ-トの振幅が減小した。(5)加熱が進むにつれて変化が著しくなった。 次に、得られた結果をN.Katoの理論と定量的に比較した。その結果、理論に含まれているX線ビ-ムの相関距離(Γ)を一定と仮定したところ、低反射指数の測定結果が良く説明された。しかし、高指数ではそれ程良く説明できなかった。この原因として、高指数反応で著しい熱散漫散乱が理論に含まれていないことが考えられ、今後の課題として検討を始めた。
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