研究概要 |
結晶からのX線の回折現象は、結晶が完全な場合は動力学理論で、不完全な場合は運動学理論で説明される。我々が手にする実在結晶の多くは両者の中間の完全性を有していて、これらの理論はそのまま適用できない。このため、構造解析で必要な消衰効果の補正においても、結晶性の評価においても、中間状態を説明する厳密な回折理論が望まれていた。これに答えるものとして、最近、我国のN・Katoにより統計的動力学回折理論が提案された。この理論は、上の2つの理論を包含し、且つ完全性が中間状態にある場合でも回折現象を説明し得るものとして期待されている。本研究はKatoの理論を実験的に検証したものである。 用いた試料は、C_2ーSi をArガス中で加熱し結晶に含まれる酸素原子を析出させ、ランダムに分布する格子欠陥を導入したものである。測定は、エネルギ-分散型X線回折法で積分反射強度の波長依存性を追跡する方法で行った。 測定の結果、熱処理によって結晶の完全性が失われるに従って、次の変化が強度曲線に認められた。 1.積分反射強が増大する。 2.ペンデルビ-トの位置が長波長側に移動する。 3.ビ-トの振幅が減少する。 4.加熱時間あるいは温度が増すにつれ変化が著しくなる。 5.変化の程度は反射指数に依存する。 得られた回折強度と回折理論曲線を比較し、理論の妥当性を検討した。 その際、理論に含まれる3つのパラメ-タE(静的デバイウォラ-因子)、C(位相項の相関距離)及びP(振幅の相関距離)を変化させ、測定結果を説明できるかを調べた。その結果、Pが消衰距離に比例するのではなく、反射面と結晶の不完全性が決まれば一定であると仮定すると定量的に説明でき、理論が妥当であると結論できた。950℃で0〜246 時間加熱した場合に得られたパラメ-タの値の範囲は、Eが1.0ー0.6Cは0.04ー4.0Mm,またPは0.1ー1.1Mmであった。
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