シ-ム・パッカリングに代表される「縫の不良」は、主としてミシンの縫製条件と縫われた縫目との関係において検討されてきたが、あまりにも縫製因子が複雑に絡み合っているために原因き解明には至らず、理論面からの研究の必要性が叫ばれてきた。そのような現状を踏まえ、我々は先ず速度の影響が無視できるような低速ミシンで発生する上糸張力をパ-ソナルコンピュ-タを用いてシミュレ-トした^<1)>。その結果、縫糸の物性や糸取りばねの働きなどの稼働中の上糸張力に係わる縫製因子の姿を明確化することができた。本研究は、その続きとして、実用速度(高速)で発生する上糸張力をシミュレ-トし、その張力発生に影響を及ぼす縫製因子を明確化することを目的とした。すでに完成している低速時のシミュレ-ション^<1)>をベ-スに高速時に対応するシミュレ-ション・ソフトウエアの開発を行なった。実験による検証結果として、次の2縫製因子、(1)糸調子皿の摩擦保持力および(2)天秤糸道の摩擦係数に上糸の走行速度因子(実験により求める)を組み込めばよいことが分かった。以上により縫製時の張力発生の機構が明確化になった。特に、縫い速度の増加に伴う上糸張力の増加は概ね糸調子皿の摩擦保持力の縫い速度依存性によることが明らかとなったことは大きな成果である。ここで得られたシミュレ-ションの手法を用いて、今後さらに張力とパッカリングとの関係を理論的・実験的に明らかにしたい。なお、縫製実験は次の条件で行なった。1本針本縫いミシンを用い、被縫布としてはブロ-ド布、縫い糸にはポリエステルフィラメント糸を用い、さらに伸長性の大いに異なる綿糸でシミュレ-ションの妥当性を確かめた。1)鎌田佳伸、酒井哲也、尾上正行、茶谷陽三、繊維機械学会論文集、39、T7、T86(1986)
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