〈目的〉浮遊粉塵を排出させない工夫や、樹木をふやして空気の清浄化をはかるなどの大気汚染防止対策が講じられているが、ダストを吸入したあとの身体の守りをどうするかについての積極的な取り組みはみられない。粉塵の害を食品栄養学的な観点から防禦していくための研究の一環として、酸化ニッケル(NiO):実験1、硫化ニッケル(NiS):実験2あるいは二硫化三ニッケル(Ni_3S_2:実験3を吸入させたラットの肺の各脂質レベルにおよぼす影響を、食餌中のビタミンE(Toc)あるいはBHAの量を変えて調べた。〈結果〉1.肺の各脂質量:実験1と2では、吸入の有無あるいはTocの添加、無添加にかかわらず、肺の総コレステロ-ルとトリグリセリドの量に変化はみられなかった。一方、暴露ラットの肺リン脂質(PL)量は、実験1では対照群の約1.5倍に、実験2では対照群の約2倍に増加し、その程度は食餌にTocを加えることによってやや抑えられた。実験3では3種の脂質量とも暴露によって増加し、その割合はPLで最も顕著であった。(対照群の2.0〜2.3倍)。この場合も、BHA食群でPL量の増え方が抑制された。2.肺のレシチン(PC)とセファリン(PE)量:全実験を通じて、肺PLの主成分であるPCの量はニッケル化合物の暴露により顕著に増加し、TocあるいはBHAの投与によって増加の程度が抑えられた。一方、PE量は暴露の有無あるいは食餌TocあるいはBHAのレベルにかかわらず変化しなかった。3.肺PCのパルミチン酸の割合:肺PCの主要脂肪酸であるパルミチン酸の占める割合は、いずれの実験とも吸入によって増加した。一方、食餌中のTocあるいはBHAを摂取したラットの肺PCのパルミチン酸の割合も同じような程度で上昇した。〈考察〉ニッケル化合物の暴露によって蓄積するPL量が多い程、肺障害がすすんでいるとすれば、抗酸化成分はこれを軽減させる効果を十分にもっているといえる。
|