本研究は、20世紀の最初の四分の一世紀に見られる量子物理学の発展構造の究明を目的とし、3年度にわたって文献・資料の収集をおこなうとともに研究会を開催してきた。その結果、ほぼ当初の目標を達することができた。 すなわち、量子物理学形成期の理論の形成、自然観の展開、実験研究の進展の三つの領域をアプロ-チする方法論的視点を明らかにし、その上でそれらの各領域について次のような新たな知見を得た。 (1)量子的対象という新たな自然の階層を探究する1910年代の実験研究の展開とこれらの高度化・精密化を実現した科学実験の現代的特質ーとくに実験研究における目的の設定、その手段となる装置設計の思想・理論、開発形態、生産技術との関わり、実験研究に見られる科学の自律性、および物理学理論・物理実験技術の展開と計測工学・標準の設定との関連などについて。 (2)量子力学の形成の基礎となった前期量子論の展開とその新理論形式との関連性、および量子物理学的対象の記述、量子概念の発見・受容過程にみられる理論的手法の特徴ーとくに理論に固有なモデルの探求、断熱定理の物理学的意味とそれらの数学的定式化について。 (3)量子論的自然観の形成、1920年代に見られる量子物理学に特徴的な認識論的諸問題、およびそれらの物理学思想、哲学への影響について。 (4)量子物理学に見られる新しい研究形態、すなわち理論科学・実験科学両部門への分化の萌芽とこれに対する科学者の対応について。 以上、最終的な総括をおこない、その成果をまとめた。
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