「両大戦間期のフランスにおける文学者と科学者のアンガジュマン(政治参加)に関する実証的研究」というテ-マに基いて、本年は期間を第二次大戦下に照準を合わせ、対象を文学者のアンガジュマン、特にアルベ-ル・カミュに的を絞った。まずフランス現代史を紐解いて、当時の世界の動向と戦況の推移につれて、フランスはどう変らざるを得なかったかを鳥瞰した。その結果、第二次世界大戦は、フランス国内にとってドイツとの消極的な対戦で始まったために、対応が後手々々に回り、思い掛けずも敗戦となり、国民は衝撃を受けたこと、またドイツの対フランス占領政策が、国民を占領地区と非占領地区に分断し、対独協力の傀儡政権を打ち立てるなど複雑を極めたため、国民感情は多いに揺れ、文学者たちの心理もまた例外でなかったことが解った。国内の全ての領域で、対独協力派と、対独抵抗派に分かれてしまったのである。当初レジスタンス運動が低迷していた一因はそこにあると思われる。しかし戦争が泥沼化し、世界大戦化するのを予見した、一部の対独協力派でない軍人・政治家らが組織立った抵抗運動を一早く始めていたために、カミュのようにそれに遅まきながら合流する文学者もいたが、以前として対独協力のままの文学者、あるいはあいまいな態度を取り続けるものも多かった。対戦国のみならず、連合軍のそれぞれの思わくも退けて、結局は草の根運動的な国民のレジスタンスがフランスを救ったことに思いを致すとき、国民を啓蒙する役割を担わなければならないはずの、知識人たる文学者たちが、何故もっと早期に、もっと団結してレジスタンスに向わなかったのか、カミュ以外の文学者の動向を追いながら究明を続ける必要が明らかになった。 なお、科学者のアンガジュマンについては、引き続き資料を収集中である。
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