本研究の目的は、発育期におけるスポ-ツ活動の動脈硬化性疾患に対する予防効果を検討することである。そのために中学生を対象にして、入学時から3年間縦断的に追跡し、高度のスポ-ツ活動への参加の程度が、動脈硬化危険因子、および大動脈脈の硬度に及ぼす影響を検討した。 対象にしたのは、A地区の中学校(2校)の生徒333名、およびB地区の中学校の生徒32名である。A地区では、血清総コレステロ-ルおよびHDLコレステロ-ル濃度、血圧、体脂肪量の測定を行った。B地区では、大動脈脈波速度の測定を行った。 A地区における成績:課外スポ-ツ活動への日常の参加率と動脈硬化危険因子の関係をみると、1年次には運動の有意な効果は認められなかった。2年次には参加率が50%を越える者では、明らかに運動の効果が認められた(男子の拡張期血、血清総コレステロ-ル濃度、動脈硬化指数。女子の拡張期血圧)。しかし、3年次の秋には全員がスポ-ツ活動を中止しており、効果は消失していた。2年次の成績を検討すると、参加率が80%を越える者と50ー80%の者では、効果に差はなかった。また、通学距離の長短は危険因子に影響を与えていなかった。すなわち、動脈硬化危険因子に対しては、ある程度以上の運動をすれば効果があり、極端に高度の運動は必要なさそうである。運動の効果を分析すると、血圧と血清総コレステロ-ルに及ぼす効果は、運動が体脂肪を減少させることによる間接的なものであるという要素が強いと思われたが、運動の直接的な効果も多少はありそうであった。 B地区における成績:大動脈の脈波速度から推測した動脈の硬度には、スポ-ツ活動の有無による差は認められなかった。しかし、さらに長期間の追跡を継続すれば差が明確になる可能性は残されている。
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