研究概要 |
1.カルパスタチンの細胞増殖,分化に及ぼす影響を調べるため、カルパスタチンcDNAを正あるいは負方向に動物細胞発現ベクタ-につなぎ、ラット線維芽細胞および神経芽腫細胞に導入した。外来カルパスタチン遺伝子を発現する幾つかの細胞株を樹立したが、細胞の増殖性や薬剤による神経突樹誘導能には差が認められなかった。用いた細胞株は、内在性のカルパスタチンのレベルが既に十分に高く、外来遺伝子発現による増加量が2〜3倍にしかならないこと,またアンチセンスRNA発現ベクタ-の場合も抑制量が十分でないことの理由により、導入遺伝子の効果が観察されなかった可能性がある。 2.Rat1細胞は、ヒト成人T細胞白血病ウイルスHTLVーIのtax遺伝子産物によって悪性形質転換させることができる。形質転換細胞と対照細胞でウエスタンブロッティング法でカルパイン、カルパスタチンレベルを比較したが顕著な差は認められなかった。 3.ヒトゲノムDNAの解析を前年度から引続き行った。カルパスタチンは一次構造上、4つの繰返しドメインと1つの非相同性領域ドメインLをN末側にもつ。今回、ドメインLは6つのエキソンに分れ、さらにS'非翻訳領域にも1つのイントロンの存在が判明した。 4.赤血球,K562細胞のカルパスタチンは他細胞と較べ分子が小さい。スプライシングに帰因する翻訳領域の差異の可能性を探るため、mRNAをcDNAに変換後PCR解析を行った。網状赤血球,K562細胞,T細胞,B細胞いずれの場合も、予想される大きさが得られ、mRNAの異型性は存在せず、細胞の種類によるカルパスタチン分子の大きさの違いは、翻訳後のタンパク質分解に帰因すると推定される。このことは、有核赤血球であるニワトリ赤血球では他組織と同一大きさであったことからも支持される。
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