ヒト胎盤のフィブロネクチンの研究途上、新しく見いだしたフィブロネクチン結合性プロテオグリカンについて本研究を進めた結果、次のようなことが明らかになった。1.血漿フィブロネクチンをサ-モライシンで限定分解し、細胞接着ドメイン、ゼラチン結合ドメイン、ヘパリン結合ドメインに分画し、本プロテオグリカンとの結合性を調べた結果、ゼラチン結合ドメインと相互作用することが明らかになった。2.羊膜上皮細胞の培養系を用いて、本プロテオグリカンの生理活性を調べた結果、本プロテオグリカン自体は羊膜上皮細胞の接着、伸展促進活性はないが、フィブロネクチン表面に結合させておくと、フィブロネクチンに接着した羊膜上皮細胞の細胞伸展が著しく促進されることがわかった。この結果は、細胞外マトリックス成分が複合して細胞の活動制御に関わっていることを示唆している。3.皮膚扁平上皮癌組織を調べた結果、高分化型では腫瘍巣の基底膜はほとんど分断されていないが、低分化型では分断の程度が大きく、プロテオグリカンをはじめとする基底膜成分酵素による分解が大きいことが示唆された。また、エクリン腺分化型の3種の皮膚癌組織を調べた結果、基底膜上の本プロテオグリカンもラミニンやIV型コラ-ゲンと同様に分断されており、癌細胞の高い分解活性によるものと推定された。一方、本プロテオグリカンが腫瘍組織の間質にもフィブロネクチンと共存して存在していることが明らかになり、腫瘍においても本プロテオグリカンがin vivoでフィブロネクチンと結合して存在している場合があることを示唆する新知見が得られた。今後、cDNAの解析などを通して本プロテオグリカンのコア-蛋白の構造を決定し、機能との関係を明らかにしていくことが必要である。
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