生物におけるエネルギ-変換過程は、生物が熱力学的非平衡系として存在するために、細胞の生命活動に普遍的に深く関わっている。エネルギ-変換利用系の中でとりわけシステムとして簡単である二次性能動輸送系について反応機構を解明することは、他のより複雑なエネルギ-変換過程を理解するための基本的概念を提供する。二次性能動輸送系は、熱力学的には共役イオンの電気化学ポテンシャル差を物質の能動輸送のエネルギ-に変換するシステムとして理解されているが、化学反応論的なメカニズムに付いてはまだ議論の分かれている状態であった。 本研究においては、研究計画に従って順調に成果をあげることができた。反応機構の研究では、大腸菌プロリン・ラクト-ス・グルタミン酸各輸送タンパク質ともに、共役イオンが輸送タンパク質に結合することにより、タンパク質のコンフォメ-ション変化を促して基質への親和性を増大せしめることがわかり、親和性モデルの成立することが示された。輸送タンパク質の構造と機能の研究では、グルタミン酸/ナトリウムイオン共輸送タンパク質遺伝子のクロ-ニングと塩基配列決定により、5つのアミノ酸の並びをナトリウムイオン結合モチ-フとして相同性検索により発見することができた。一方、プロリン輸送タンパク質についての遺伝生化学・生化学・分子生物学的研究により、基質結合・共役イオン結合に関係するアミノ酸部位を特定することができ、さらに輸送タンパク質の膜内における配向性についても同定することができた。 今後、エネルギ-変換系の一つである二次性能動輸送系で、こうした親和性モデルが成り立たねばならない必然性についての研究、裏返せば、親和性モデルでなくランダムモデルが成立するような二次性能動輸送タンパク質の設計が可能かという問題意識を持って本研究を発展させ、輸送タンパク質の構造と機能の関係を明らかにする必要がある。
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