リポ蛋白リパ-ゼ(LPL)の生理的作用の発現には、次の3つの過程が必須である。(1)実質細胞でのLPL遺伝子の発現に伴う合成・分泌(2)LPLの血管内皮細胞への輸送(3)LPLの血管内皮細胞へのけい留。本研究では、ヒトマクロファ-ジ(Mφ)細胞をモデル系とし、LPL蛋白生合成およびLPL蛋白合成異常を示す対象者のLPL遺伝子の研究、さらに合成されたLPLの内皮への結合と解離などの研究を行い、以下に述べる結果を得た。 (1)LPLの合成・成熟・分泌過程:ヒトLPL蛋白生合成機構を解明するのに必要となる精製LPL蛋白及び抗ヒトLPL抗体を得ることに成功した。これら抗体を利用することにより以下に述べるような生合成実験を行った。ヒト単球由来株化細胞(THPー1)をホルボ-ルエステル(TPA)の添加でマクロファ-ジ(Mφ)化させ、実験に使用した。ヒト培養Mφを^<35>Sーメチオニンで蛋白をパルスラベルし、細胞内および分泌された標識LPLを抗ヒトLPL抗体で特異的に免疫沈降させ、SDSー電気泳動で分析した。LPLは小胞体でまず55KDa蛋白として合成されると同時にNーグリコシル化を受け、活性型の60KDa蛋白になり、さらにゴルジ体でガラクト-スなどの糖付加を受け、分泌型の61KDa蛋白となり分泌される。この分泌型LPLは血管内皮細胞表面に生理的に活性型として結合できることが明らかになった。 (2)LPL欠損者のLPL異常を蛋白及び遺伝子レベルで研究:LPL欠損者を臨床検査レベルで検出するために、ヒト血中のLPL蛋白の酵素免疫法(EIA法)による測定系を開発した。さらにLPL異常の病因を遺伝子レベルで解析するため、ヒトMφ由来細胞(THPー1)よりヒトLPLcDNAをクロ-ニングし、全塩基配列を決定した。クロ-ニングしたLPLcDNAをプロ-ブとし、LPL欠損患者TNのLPL遺伝子異常を解析した結果、エクソン5の1塩基の欠失によりフレイムシフトをおこし、エクソン5にTGAのスットプコドンができ、結果的にLPLmRNAが不安定になり、LPL蛋白合成が出来ない遺伝子異常であることが判明した。 (3)分泌されたLPLの内皮細胞への輸送とけい留:Mφより分泌されたLPLおよび精製されたLPLを用いて、培養ウシ大動脈内皮細胞への結合と解離に関する実験を行った。ヒトLPLはウシ内皮細胞に時間依存的に結合し、約2時間で飽和に達した。結合するLPL活性は濃度依存的に増加し、単位面積当りの最大結合量は3.4umolFFA/h/cm2 であった。この様に結合したLPLは免疫組織化学的に検出することが出来た。また、約2.4hの半減期で代謝回転していることが判明した。
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