放射線の生物作用のメカニズムを解析する一つの手段として、ヒトの放射線高感受性の突然変異体である劣性遺伝病のataxia telangiectasia(AT)患者由来の細胞を用い、細胞の放射線感受性に関与するこの突然異変とその遺伝子座位の染色体上での位置づけを染色体移入という実験手法を用いて行なうことが本研究の目的である。本研究の初年度である今年度は、染色体移入実験の受容細胞となるAT患者由来の細胞株の樹立とその特性の解析および染色体移入実験系の完備に重点を置いた。 1.複数のAT患者から採取した皮膚より培養線維芽細胞系をつくり、これらにSV40ゲノムを含むプラスミドDNAトランスフェクションを行なって増殖性形質転換細胞を得、さらにこの中から無限増殖能を有する永代細胞株を選別した。得られた永代細胞株の一つは高い増殖性、親株と同様の放射線高感受性を示すと共に近二倍体の安定した染色体構成を有するため染色体移入の受容細胞として極めて適していることが判った。 2.ネオマイシン抵抗性の優性選択マ-カ-で標識したヒト染色体を含むマウス細胞株から微小核融合法による染色体移入実験を試みたところ、薬剤耐性を用いた染色体移入クロ-ンの単離、単離クロ-ン由来細胞における放射線感受性試験や染色体解析、等が可能なことが確認できた。 3.数種類の染色体種を用いた染色体移入実験を行ったところ、ヒト正常第11番染色体の移入から得られたクロ-ンのなかに放射線抵抗性を示すものが見いだされた。予備的な実験段階ではあるが目的とする染色体種の有力な候補が示唆されたと考えられる。
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