放射線の生物作用メカニズムを解析する一つの手段として、ヒトの放射線高感受性の突然変異体である劣性遺伝病のataxia telangiectasia(AT)患者由来の細胞を用い、細胞の放射線感受性に関与するこの突然変異とその遺伝子座位の染色体上での位置づけを染色体移入という実験手法を用いて行なうことが本研究の目的である。本研究計画の第二年度である今年度は、AT患者由来の細胞株を用いて昨年度に得られたAT関連遺伝子の染色体座位に関する予備的な知見を確認し、さらに詳細な染色体マッピングをおこなう事に重点をおいた。 1.染色体移入実験の受容細胞として、昨年度にAT患者の皮膚線維芽細胞から樹立した永代細胞株を、染色体供与細胞として、薬剤耐性マ-カ-で標識したヒト染色体を含むマウス細胞株を用いた。微小核融合法により染色体移入をおこない、薬剤耐性を用いて染色体移入細胞を単離して染色体構成と放射線感受性を調べた。 2.ヒト第11番染色体の移入によりAT細胞が放射線抵抗性を獲得することがより多数のクロ-ンの解析から確認された。また放射線抵抗性を獲得しなかったクロ-ンでは、第11番染色体長腕が欠失しており、放射線抵抗性を付与する遺伝子が染色体の長腕部にあることが示唆された。 3.さらに第11番染色体の種々の部分とX染色体との転座染色体を供与染色体に用いた実験から、第11番染色体の長腕q13→q23領域が放射線抵抗性の獲得と関連しているという予備的な結果を得た。これはATの放射線感受性に関連する遺伝子が第11番染色体に位置することを確証すると共に、この染色体上でのさらに詳細な領域の解析への手がかりとなる成果であると考えられる。
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