放射線の生物作用のメカニズムを解析する一つの手段として、ヒトの放射線高感受性の突然変異体である劣性遺伝病のataxia telangiectasia(AT)患者由来の細胞を用い、細胞の放射線感受性に関与するこの突然変異とその遺伝子座位の染色体上での位置づけを染色体移入という実験手法を用いて行なうことが本研究の目的である。本研究計画の最終年度である今年度は、AT患者由来の細胞株を用いて昨年度までに得られたAT関連遺伝子の染色体座位に関する予備的な知見を確認し、さらに詳細な染色体マッピングをおこなう事に重点をおいた。 1.染色体移入実験の受容細胞として、初年度にAT患者の皮膚線維芽細胞から樹立した永代細胞株を、染色体供与細胞として、薬剤耐性マ-カ-で標識したヒト染色体を含むマウス細胞株を用いた。徴小核融合法により染色体移入をおこない、薬剤耐性を用いて染色体移入細胞を単離して染色体構成と放射線感受性を調べた。 2.第11番染色体p12→qter領域を含むX/11転座染色体を移入するとAT細胞は放射線抵抗性を獲得するがHAT耐性であるのに中間的な放射線抵抗性しか示さない亜クロ-ン2859/4が得られた。クロ-ン2859/4の解析から、このクロ-ンは放射線感受性と抵抗性との2種の細胞群より成り、前者の群から放射線抵抗性を消失すると同時に染色体11q23領域の徴小欠失をもつ1クロ-ン2859/4ー1が得られた。 3.クロ-ン2859/4ー1を得たことは、第11番染色体q13→23領域にATの放射線高感受性に関連する遺伝子が存在するという、昨年度までの知見を確証すると同時にその領域をq23領域に限定した。さらに、この徴小欠失をもつ転座染色体は、AT遺伝子そのものを解析・単離する上で重要な出発材料になるとおもわれる。
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