γ線(Gyレベル)の照射によって誘発される染色体異常(小核やSCE)は、前以ってCGy程度のβ線やγ線を照射しておくとその頻度が低下することを哺乳動物培養細胞で見出した(1987)。これは、細胞が低レベル放射に適用応答し、クロマチンDNAの修復機能が誘導される現象であると考え、放射線適応応答と呼んでいる。本研究では、放射線適応応答の現象が見出されたチャイニ-ズハムスタ-V79細胞を用い、その発現機構について実験的検討を行い、その遺伝的制御のネットワ-クを解明することを目指している。今年度に行った研究によって得られた知見を以下に要約して記す。1.放射線適応応答の誘導に最適な前照射条件を検討した結果、1Gyのγ線による小核生成に対しては、細胞核線量にして1〜10CGyの前照射が有効であり、これよりも低くても高くても放射線適応応答は認められない。2.1または5CGyのγ線による放射線適応応答の発現には4時間は必要であり、2時間では発現されていないか不充分である。3.原子炉熱中性子の前照射では、放射線適応応答の誘導発現は起こらないようである。4.放射線適応応答の発現が誘導された細胞では、マイトマイシンCや近紫外線(UVB)によるSCE生成に対しても交叉耐性を示すが、アルキル化剤やシスプラチンに対しては耐性を示さない。5.放射線適応応答の発現は、転写レベルで制御されており、ゲル電気泳動法による解析から、数種の蛋白質の誘導合成が起こることが示唆された。現在、この点の確証を得るために実験を継続中であるが、放射線適応応答に関与する遺伝子DNAの検索・同定へと展開させるべく計画中である。また、放射線適応応答の発現誘導の引金となる細胞要因の決定と関連して、低線量放射線によるクロマチンDNA損傷の単一細胞での定量的解析系として、ミクロ電気泳動法の検討を行いつつある。
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