研究概要 |
低レベル(cGyオ-ダ-)のβ線やγ線に前もって被曝した細胞では、その後のγ線照射による染色体異常(小核、SCE)の誘発が抑制されることを見出したが、その後の研究成果から、これは一種の適応的な放射線耐性の獲得現象であり、誘導的DNA修復がその実体であると考えられるので、「放射線適応応答、Radioーadaptive response」と命名した(Mutation Res.227,241,1989)。本研究では、放射線適応応答の現象が見出されたチャイニ-ズハムスタ-培養細胞(V79)を用いて、その発現機構に関し実験的検討を行い、遺伝的制御のネットワ-クを明らかにすることを目的としている。1.放射線適応応答の誘導に最適な線量域(1cGy〜10cGy)の存在、2. ^3Hβ線やγ線などの低LET放射線の有効性、3.放射線適応応答の発現時間および一過性、4.ポリ(ADPーリボ-ス)ポリメラ-ゼの関与、5.近紫外線、マイトマイシンCや熱中性子に対する交叉反応性、などの諸特性が明らかになっているが、今年度の研究により、新たに、トリチウム水β線の照射も放射線適応応答のトリガ-になり得ること、高LET放射線としての原子炉熱中性子には放射線適応応答はないらしいこと、が明らかになった。さらに、タンパク質合成の阻害剤であるシクロヘキシミドの処理により、放射線適応応答の発現が抑制されることがわかった。また、実際に、低線量γ線の照射後に、放射線適応応答の発現と時間的に呼応して数種のタンパク質の誘導合成が起こることを、2次元ポリアクリルアマイド電気泳動法により確認することができた。これらの結果から、放射線適応応答はかなり限定された条件で起こる適応的染色体DNA修復であり、低線量放射線による“放射線適応応答遺伝子"の誘導発現を伴うものであることが示唆される。今後、これらの遺伝子DNAの検索・同定へと研究を展開する必要がある。
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