研究概要 |
低レベル(cGyオ-ダ-)のβ線やγ線に前もって被曝した細胞では、その後のγ線照射による染色体異常(小核、SCE)の誘発が抑制されることを見出した(Mutation Res.180,215,1987)。現象的特性から、これは一種の適応的な放射線耐性の獲得現象であり、放射線に対する適応的DNA修復がその実体であると考えられので、「放射線適応応答(Radioーadaptive response)」と命名した(Mutation Res.227,241,1989)。本研究では、放射線適応応答の機構を明らかにするために、実験的検討を行い以下のような知見を得た。1.放射線適応応答は、^3Hーチミヂンでもトリチウム水でも起こる。2.放射線適応応答の誘導に最適な線量域(1〜10cGy)が存在し、これよりも高くても低くても有効でない。3.γ線照射でも放射線適応応答はみられるが、高LET放射線としての原子炉熱中性子ではみられない。4.放射線適応応答の発現には4時間必要である。5.誘導された放射線耐性は細胞分裂に伴い速やかに減衰し、長時間は持続しない。6.ポリ(ADPーリボ-ス)ポリメラ-ゼが関与している。7.近紫外線、マイトマイシンCや熱中性子(弱い)に対して交差耐性を示すが、EMSやシスプラチンには反応性がない。8.蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシミドの処理により、放射線適応応答の発現は抑制される。9.放射線適応応答に有効な低線量放射線照射により、その発現と時間的に呼応した複数種の蛋白質の誘導的合成が起こる。これは、2次元ポリアクリルアマイド電気泳動法とフルオロギラフィ-による解析により示された。以上のことから、放射線適応応答はかなり限定された条件下で起こる適応的染色体DNA修復であり、低線量放射による“放射線適応応答遺伝子"の誘導発現を伴うものであると考えられる。今後は、これらの遺伝子DNAの検索・同定への研究を展開する必要がある。
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