われわれは、これまでに経験年数の長い診療放射線技師の中に放射線の影響と考えられる染色体異常やEBウイルス(EBV)に対する液性免疫応答異常の疑われる人が存在することを明らかにしてきた。本研究では、熊本県が成人T細胞白血病(ATL)の好発地域であることに着目して、診療放射線技師におけるhuman T cell lymphotropic virus typeー1(HTLVー1)と放射線被曝との関係を、ATL細胞、HTLVー1抗体、および染色体異常を指標として調べた。また、転座染色体と癌遺伝子存在部位との関連を調べるとともに、EBVと同じヘルペス科ウイルスであるサイトメガロウイルス(CMV)抗体の動態から低線量放射線の長期複曝の影響を追求した。その結果、 1.HTLVー1抗体陽性例は診療放射線技師(経験年数が1年以上)99名中3例(3.0%)、対照群96例中4例(4.2%)みられた。その中の技師1例の末梢血にATL細胞が50%観察された。この技師の白血球数は8500/mm^3、Ca値は9.2mg/dlであり、当大学病院で慢性型ATLと診断された。しかし、残りのHTLVー1抗体陽性例にはATL細胞は見いだせなかった。 2.構造異常を有する染色体が放射線技師(53名)には2.5%、対照群(36名)には1.6%の頻度で観察された。構造異常では転座染色体が最も多く検出され、その頻度は技師群が対照群に比べて有意に高かった。相互転座染色体の中ではt(7;14)の頻度が最も高かったが、技師群と対照群との間には有意差はみられなかった。7番染色体と14番染色体間の相互転座例の大多数が7q32ー36、14q11ー12の部位で部分交換をしていた。ATLでは14q11ー12に切断点を有する異常が報告されているが、今回対象としたHTLVー1抗体陽性例にはクロ-ンとしての異常はみられなかった。また、ski、abl、myb、mos、myc、Nーmycなどの癌遺伝子存在部位での転座例も若干みられたが、クロ-ンとしての異常は観察されなかった。 3.CMV抗体量と低線量放射線被曝量との間には特定の関連はみられなかったが、CMV抗体異常陽性(ELISA OD値≧0.4)の放射線技師ではCMV抗体陰性の技師に比べて、EBVーVCA/IgGおよびEA/IgG抗体異常陽性例が高率にみられた。
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