原子炉の一次冷却水は通常一台の定速回転のポンプによって楯環されることから、冷却水楯環ル-プの機器の振動、配管内の圧力変動および冷却水の流量変動には、ポンプの回転による固有の振動周波数成分が含まれている。一次冷却系に異常が生じ、ポンプの負荷変動が生ずると、固有の振動周波数から逸脱した異常な周波数成分が発生する。本研究はリアルタイムで冷却系機器・配管の振動デ-タを収集し、その周波数スペクトルを解析することから、原子炉の異常を検知する方法を確立しようとするものである。しかし、原子炉で実際に異常状態を作ることはできないので、楯環ポンプ、貯水槽、バルブ、配管から成る原子炉の一次冷却系を模擬した配管ル-プを作った。この模擬装置によって照射試料による配管閉塞、原子炉タンクの水位低下、配管継手不良による冷却水中へのボイド混入、機器・配管の固定ネジの緩みを想定した異常状態を人為的に発生させて、楯環ポンプ・冷却系配管の振動、配管内の圧力変動、冷却水流量変動の周波数スペクトルの解析を行い、冷却水ル-プの異常診断方法について実験・検討を行った。この結果、配管閉塞、配管内へのボイド混入には圧力変動のスペクトル、水位低下にはポンプの回転数、配管の固定ネジの緩みには振動スペクトルに変化が現われ、特にポンプの回転数に同期したデ-タサンプリングにより求めた各検出器出力のスペクトル解析においては、基本波成分と倍波成分の比のバラツキは小さく、これにより異常の検知・診断ができそうであるとの結果を得た。また、周波数スペクトルの解析に圧縮平均法を導入すれば、実時間での解析が可能となり、高価な設備診断の装置や技術を用いなくても、より速やかに運転中の研究炉の一次冷却水ル-プの異常を検知することが可能であるとの結論を得た。
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