本研究は、在日華僑社会の地域的特色を明らかにするとともに、それらの特色の形成要因について考察することを目的とした。 平成2年度は2年間の研究計画の最終年度にあたり、平成元年度から実施してきた現地調査を継続して行い、横浜・京都・神戸・大阪・沖縄などにおいて、在日華僑社会関係の新たな資料を収集することに重点が置かれた。あわせて、これまでの在日華僑社会に関する調査結果を、東南アジアの華僑・華人社会と比較考察を行った。 本研究で明らかになった成果は多岐にわたるが、主な点は以下のとおりである。 1.日本の中華街は、横浜・神戸・長崎のように、いずれも幕末の開港都市に形成された。 2.在日華僑の出身地に関して、台湾出身者が多数を占めることは大きな特色の一つである。また、横浜・神戸では広東人が、長崎・函館では福建人(とりわけ福清県出身者)が卓越している。 3.在日華僑の経済活動の分野は、中国料理業・理髪業・洋服仕立業といういわゆる「三把刀業」のように、非常に限定されてきた。第二次世界大戦後は、中華料理店の経営が、在日華僑の主要な職業になり、現在に至っている。 4.今日、日本の中華街は、観光地として発展している。東南アジアでは、チャイナタウンが生住民族を対象とした観光地にはなりにくい。これに対して、日本では、中国文化が観光資源となり、日本における中華街の観光地化や在日華僑の中国料理業の発展は、在日華僑の日本社会への最も特徴的な適応形態の一つであると言える。
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