研究概要 |
前年度までに18世紀末から19世紀中頃にかけての,冬・梅雨期・夏・台風期の各季節の気象・気候特性の復元を,気温,降水量,異常天候出現頻度,等の面から行ってきた。今年度は復元の期間をできるだけ気象観測時代につなげる方向で延長し,一部については現在まで200年余にわたる気候変動の状況が明らかになった。まだ資料整理の段階にある部分も残っているが,間もなくそれらについても結論が出せる。さらに19世紀前半から後半にかけて,気象・気候特性上大きな変化が見られる現象が幾つか発見され,近世小氷期の気候特性の実態と,近世小氷期の終末がほぼ19世紀中頃に当たることがわかった。 小氷期と小氷期以後の気候特性を比較すると,その差異を生じさせる直接の原因としては,卓越する大気大循環型の違いがもっとも有力である。このような大気大循環型の変化の背景には,海洋と大気との相互作用,および火山活動の強弱などがもっとも重要な原因と推測される。前者については例えばエルニ-ニョ現象の発生頻度,後者については大規模な火山噴火事象との関連があると推測でき,目下この点について詰めの作業を行っている。世界の他地域における気候変動との対比では,平行した変化過程を示す地域が限られることから,10^1〜10^2年程度の気候変動の直接の原因として大気大循環の特性の変化が大きく浮び上がってくる。小氷期には東アジアの大気大循環の特色として,冬に東西指数が低く,夏に高い傾向のあること,またその背景としてエルニ-ニョ現象が比較的不明瞭であったことが推察される。今年度は研究期間の最終年次に対たるので,上記の結果を日本地理学会,日本気象学会,及び近世小氷期の気候に関する国際シンポジウムで発表し,廣く国内国外の研究者からの意見,批判を受けた。その内容は今後歴史時代の気候変化復元研究を進めるに当たって,極めて示唆に富むものであった。
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