1.研究の方法と経過:大正池から上流部の流域全体について空中写真判読をおこない、砂礫の供給源、崩壊地、渓床の状態、本流の河道の状態についてマッピングした。現地調査は、おもに崩壊地、渓床の状態、本流の河道形態(微地形)などの観察をおこない、支谷出口の沖積錐や扇状地では、地形編年のための植物の調査もおこなった。本流では河床礫の計測もおこなった。 2.現在の地形変化の様式と速度:(1)最終氷期の氷河作用と、晩氷期ごろの激しい周氷河作用によって、カ-ル底、山腹、谷底などには、モレ-ン、崖錐などの形で古い未固結堆積物が大量に存在する。(2)この流域の現在の地形変化は、斜面での崩壊、渓床での土石流、河床の変化の3つが重要である。(3)斜面変化の様式と速度は岩質と傾斜によって場所ごとに大きく変化している。花崗岩、花崗閃緑岩の場所では崩壊地が多く地形変化が速いのに対して、古生層の場所には崩壊地は少なく、植生の発達がよい。(4)崩壊地の面積、面積当たりの侵食深から見積られた流域内の土砂生産量を流域毎にみると、二の俣沢、横尾谷、岳沢などの大きな流域に大きいが、単位面積当りでは、奥又白谷など前穂高岳、明神岳の東面・南面の谷で大きい。(5)上高地の南側の六百山・霞沢岳の沢は土石流によって地形変化が起こっている。(6)河床の地形:梓川の本流では、支沢からの土砂の流入と狭搾部との関係から堆積部(河床上昇部)とは洗掘部とが明らかになった。堆積部は河童橋周辺、明神の下流、徳沢の下流である。 3.地形変化予測:今後の地形変化は10^1年オ-ダ-の変化と、10^<2ー3>年オ-ダ-の変化とに分けられる。前者では、河床変動、流路変更、斜面崩壊、土石流などが、後者では、大規模な斜面崩壊と谷の埋積が起こる可能性がある。これに基づいて地形災害危険度地図を作成中である。
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