研究概要 |
長野県梓川上流の上高地では,土砂災害を防ぐという名目で砂防工事・河川改修をおこなおうとする建設省や観光業者と,景観の保存を主張する環境庁や自然保護団体との対立が表面化してきた。とくに本流での帯工建設が問題になっている。環境庁は本流の工事に反対しているが,今後どうするかの方策を提示してはいない。このような状況を打開するために,地形学的観点から解決策を探った。 (1)上高地の開発の歴史,これまでの砂防工事・河川改修の経緯と,環境保護の実態を検討した結果,現在,行われているような特定の景観や生物の種だけを残すという保全では不十分で,ト-タルな変化する自然をそのままで残す必要がある。 (2)過去および現在の地形変化について,空中写真判読・現地調査をおこなった。上高地は天然の砂防ダムの機能を持っているから,下流に対しては砂防工事の必要はほとんどない。上高地自体については,予察的ながら,以下のような地形変化予測ができる。支谷からの砂礫はいったん本流谷底に扇状地などとして堆積し,徐じょに運搬されているから,急激な地形変化の可能性は少ないといえる。したがって,建設省の工事が全部行われると,梓川本流は段丘化する可能性がある。 (3)地形変化の将来予測を基にした地形災害危険度地図を作成した結果,現在利用されている多くの場所にはかなり多くの危険があることが分かった。 (4)既存の施設を維持するための砂防(必要最低限だとしても)をおこなうと,景観・自然の保全は不可能になるだろう。なるべく防災工事をおこなわないために施設移転を含めた根本的な利用計画の見直しが必要である。
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