本年度は特に河岸段丘崖各部の高度構成比について研究した。本研究で調査した河岸段丘崖の縦断形は、一般に頂部凸形部、中形直線部、基部凹形部の3部分に分割される。それぞれの高度構成比(各部の比高/斜面全体の比)をξ_<cv>、ξ_<st>、ξ_<cc>、また傾斜(頂部凸形部と基部凹形部では見掛傾斜)をθ_<cv>、θ_<st>、θ_<cc>と記す。形成年代の異なる段丘崖系統ごとに各部の高度構成比を平均すると各部の高度構成比は、ξ=α+βlogTの形で表される。だだし、Tは段丘崖の年代であり、αとβは定数で、段丘崖の各部で異なった値をもち、さらにそれらの値は受盤斜面と流盤斜面とで異なっている。 高度構成比の時代的変化を、実測した時間範囲(0.5〜30ka)を起えて内挿および外挿すると、頂部凸形部および基部凹形部は受盤斜面より流盤斜面に早く出現する。これは流盤斜面では地層面に沿って斜面崩壊が起りやすいためである。ところが、それらの高度構成比(ξ_<cv>およびξ_<cc>)は、受盤斜面より流盤斜面で緩慢に増加する。これは流盤斜面では、ひとたび相対的に低抗性の最も小さい地層面に沿って斜面崩壊が起ってその部分が平行盤斜面になると、そりより下位の地層面が風化や水文過程さらには斜面過程に対する低抗面として振舞うからである。 段丘崖各部の高度構成比の時代的変化に関する上記の経験式とSuzuki and Nakanishi(1990)の示した段丘崖各部の傾斜(θ_<cv>、θ_<st>、θ_<cc>)の時代的変化に関する経験式とを組合せて、種々の初期条件をもつ任意地点における任意時点の斜面縦断形の予知および遡知すると、斜面全体の平均傾斜は、Suzuki and Nakanishi(1990)の示した段丘崖全体の平均傾斜を表す経験式から求めた平均傾斜とほぼ一致する。このように互に独立の二つの方法で求めた値の一致は、少なくとも本研究地域においては、このモデルが妥当であることを示唆する。
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