タンパク質の折りたたみ機構を明らかとする上で、折りたたみ反応の遷移状態の特性を調べることは本質的な重要性をもっている。本研究では、スタフィロコッカルヌクレア-ゼ(SNase)をモデルとして、遷移状態における臨界構造の解析を行なうとともに、かかる解析に部位特異的アミノ酸置換を有効に利用し得る系を確立することを目的とする。以下の結果が得られた。(1)野性型SNaseの尿素によるアンフォ-ルディングと巻き戻りを、ペプチド域ストップトフロ-CD法により調べた。巻き戻りの初期に主鎖二次構造の回復した中間体が蓄積されるが、他の球状タンパク質に比べ中間体の安定性は著しく低いことが明らかとなった。(2)アンフォ-ルディングと巻き戻りの速度過程に与える特異的リガンド(Ca^<2+> イオンとpdTp)の影響を定量的に解析し、遷移状態の構造に関する知見が得られた。他の二つのCa^<2+>結合タンパク質(αーラクトアルブミントパルブアルブミン)の結果との比較より、遷移状態いおける臨界構造は、タンパク質構造形成の階層性を反映していると結論される。(3)bacーtac タンデムプロモ-タと大腸菌プロテア-ゼIIIのリボソ-ム結合部位・シグナル配列を利用して、SNase変異体作成に有用な大腸菌によるSNaseの発現分泌プラスミドを作成した。タンパク質発現量は培地1l当たり〜10mgであった。(4)SNaseのプロリン117をグリシンに変えた変異体P117Gを作成し、プロリンのシス-トランス異性化がアンフォ-ルディングと巻き戻りの速度過程に与える影響を調べた。プロリン→グリシン変異により両反応とも速度過程が単純化し、折りたたみ反応の遷移状態を解析する上で有効であることがわかった。
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