(1)ミオグロビンのヘムの鉄を亜鉛で置換した試料の、可視域の吸収帯に、レ-ザ-光を照射してホ-ルを生成し、フォノンサイドバンドの形状を測定した。この形状は、ミオグロビンの水溶液でも凍結乾燥したミオグロビンでもほぼ同一であったことから、溶媒ではなく蛋白質の振動を反映していることが確かめられた。 (2)上と同じ試料について、温度を上げてホ-ルが消えて行く過程を観測し、ホ-ルバ-ニングの始状態と終状態を隔てるバリヤ-の高さの分布を求めた結果、分布度がバリヤ-の高さの平方根に反比例するという非常に広い分布をしていることがわかった。来年度は、ヘムの鉄を亜鉛以外の金属や、水素イオンで置換した試料について同様の実験を行ない、バリヤ-の高さの分布の起源を明らかにする計画である。 (3)研究対象をヘムなどの補欠分子を持たない一般の蛋白質に拡張するために、ポリビニルアルコ-ル中のトリプトファン、チロシン、フェニルアラニンなどのアミノ酸の紫外吸収帯におけるホ-ルバ-ニングを試みた。その結果、トリプトファンにはほとんどホ-ルはあかないが、チロシンとフェニルアラニンには比較的容易にホ-ルがあき、フォノンサイドバンドも観測できることがわかった。その形状は、ポリビニルアルコ-ル中の有機色素のホ-ルスペクトルとほぼ同一であり、媒質であるポリビニルアルコ-ルの振動モ-ドを反映していることが明らかになった。そこで次に、チロシンやフェニルアラニン残基を多く含む数種の蛋白質についてホ-ルバ-ニングを試みた結果、チロシンの吸収帯において同じようにフォノンサイドバンドを持つホ-ルスペクトルが観測された。フォノンサイドバンドの形状は蛋白質の種類によって異なることから、この手法は蛋白質の低振動数モ-ドを調べるために有効であることがわかった。来年度は、測定の精密化、定量化を進める予定である。
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