1.ミオグロビンのヘム鉄を亜鉛または2個の水素イオンで置換した試料や、ミオグロビン中のプロトポルフィリンだけを取り出して有機溶媒や高分子に入れた試料に対して、温度を上げたときにホ-ルの消えていく過程を観測する温度サイクルの実験を行なった。その結果、亜鉛置換のミオグロビンでの温度サイクルの実験結果から得られるエネルギ-障壁の高さの分布は、蛋白質自身のエネルギ-構造(Conformational Substates)を反映し、特徴的なピ-クを持たない非常に広がった形状を示すのに対し、水素置換した試料から得られるエネルギ-障壁は、ポルフィリンの中心の水素による互変体を隔てる障壁であり、狭い範囲に分布するピ-ク構造を示すことがわかった。 2.計算機シミュレ-ションによるミオグロビンの内部運動の基準振動解析のデ-タを用い、静電相互作用のみを考え、線形の電子格子相互作用によるフォノンサイドバンド形状の計算を行ない、ホ-ルバ-ニングの実験結果と比較した。20波数以上の領域では両者はよく一致したが、低波数領域では計算による電子格子相互作用強度の方が強かった。これは、低波数領域では振動の非調和性が重要になり、電子格子相互作用が弱められるためと考えられる。 3.蛋白質中のチロシン残基を用いた紫外ホ-ルバ-ニングでは、前年度より精度を上げて測定したが、ホ-ルがごく浅い段階から飽和効果が現われ、フォノンサイドバンド形状の正確な測定は困難であることがわかった。これは、ポルフィリンと比較してチロシンは周囲の蛋白質の振動との結合が強いことと、チロシンの中にはホ-ルバ-ニングに寄与しない成分があるためと考えられる。蛋白質の違いによる振動モ-ドの違いは、確認するまでには至らなかった。
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