ミオシンは筋肉の収縮タンパク質であり、そのATPア-ゼ活性は筋肉における化学エネルギ-の力学エネルギ-へのエネルギ-変換過程の主要な部分を占める。本研究では、ミオシンATPア-ゼ反応中間体における立体構造および相互作用について新しい知見を得るために、ミクロ環境および相互作用のよいプロ-ブである核磁気共鳴法(NMR)を用いて測定を行った。 ウサギ骨格筋から単離精製したミオシンをキモトリプシン処理して得られたサブフラグメント1(S1)について、MgーATPア-ゼとCaーATPア-ゼの活性を測定して十分に生理活性のよい標品が得られることを確認した。そのようなS1を用いて、NMR試料管中でATPア-ゼ反応を行ったが、複合体の燐NMRシグナルは観測されなかった。おそらく、ATP加水分解反応が速く、NMR測定に必要なだけの寿命をもっていないことによると考えられる。引き続き、ATP加水分解反応が骨格筋ミオシンよりも遅いトリ筋胃ミオシンについて、S1の作成法から検討しており、ミオシンATPア-ゼ反応中間体シグナルそのものの観測は今後の課題である。また、ATPのアナログであるADPとS1との複合体形成を0^゚Cから25^゚Cまでの種々の温度で測定した。その結果、高温では複合体のシグナルが観測されるのに対し、温度を下げていくと複合体のシグナルは線幅が変わらずに強度のみが弱くなっていき、5^゚Cでは観測されないことが明かとなった。これは、S1ーADP複合体には高温型と低温型の2種類の立体構造があるとして説明される。また、高温型複合体では、ADPの燐酸のまわりの電子状態が比較的等方的に分布するのに対して、低温型複合体でてはS1のアミノ酸残基がADPの燐酸と強く相互作用するために燐酸のまわりの電子が異方性をもって分布していると考えられる。
|