(研究の視点と方法)本研究は、「児童・生徒、あるいは大学生は現代自然科学の概念とは必ずしも一致しない、独自のナイ-ブ理論(Naive Theory)を持つ」「問題設定場面が異なると、同一事象に対しても反応の形式が選択的になる」という仮説のもとに、学習者の直覚的な認識について調査した。児童の直覚的な認識の特微を明らかにする為には、同一事象に対する大学生や高校生・中学生の直覚的な認識と比較することが必要であると判断し、小学生・中学生・高校生・大学生までを調査範囲とした。 (結果)水蒸気に関する認識は、その熱源がガスの燃焼による場合、電流の発熱による場合、フラスコのような実験的な加熱の場合によって異なった特徴を持つことが見いだされ、人は問題設定場面によって選択的な認識を示すことが結論された。電気回路の認識には学習者の電流に関する固有のナイ-ブ理論の存在が確認された。また、それは授業によってかなり改善されたが、時間の経過によって再び学習前の状態に帰る可能性が高いことが見いだされた。 (今後の課題)流体中の物体の浮遊に関する調査もすすめたが、調査方法において、また、得られた事例の解釈において改善すベき問題が生じた。このため平成3年の3月までには一定の結論を得るに至っていない。これについては更に調査を進め、できるだけ近い将来に適切な学会の研究紀要に報告する。この研究は最終的には理科指導法の改善に資する基礎資料を得ようとするものである。そのため、学習者の直覚的な認識の存在を前提とした授業構成の可能性を検討するために、小学校における「人体」の指導を調査した。この結果は、授業の中に学習者の直覚的な認識の存在を仮定した授業を構築する可能性を示唆するものであった。
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