本研究では、1万年のタイムスケ-ルにおける災害の変遷に続いて、2千年および300年のタイムスケ-ルにおける各種災害の変遷を自然の外力と社会構造との関係で考察し、さらに自然災害の発生モデル方程式の構築を試みた。まず、2千年の災害史として、1)わが国の人口の変遷を各地方別に示すと、水稲技術の導入に伴う人口増加、災害の発生、社会構造の変化との関係が明瞭に表された。そこで、新田の開発、開墾など地域開発が洪水災害を増加させた事実とそれに対応した行政との関係などを明らかにした。2)社会構造に加えて、自然外力としての気候変動により、干ばつ、洪水氾濫災害が頻発し、疫病を伴い、飢饉が多発し。これが人口の停滞、減少をもたらした。ここでは、干ばつ、洪水、疫病などの発生における相互関係を見いだした。3)人口の集中に伴って、火災が増加し、気象条件のみならず、社会不安、内乱と密接に関係することを示し、その変遷を明らかにした。4)内乱、一揆などについて、災害、とくに飢饉の発生、社会不安との関係を考察し、そこに周期性の存在を見いだした。 つぎに、300年のタイムスケ-ルとして、江戸時代の災害の変遷を研究し、1)気候変動に関しては、250年間にわたる日光東照宮における天気資料を解析し、風水害の発生との関係を明らかにした。そこには、急激な開発によってもたらされた洪水災害の急増が特記されていた。2)都市集中に伴う火災の発生について調べ、そこに55年の明瞭な周期性を見いだし、また火災発生の季節変化を明らかにした。3)飢饉の発生と内乱、一揆などの変遷を詳しく調べ、米社会といわれたこの時代の社会構造を米価の変遷をもとにして考察し、災害、内乱などとの関係を明らかにした。 これらの各種災害の変遷をもとにして、自然災害のモデル方程式を構築し、自然の外力と社会構造としての防災力の変化との関係から、カタストロフィック的な災害の発生予測を可能とする試みを示した。
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