本研究目的は、各種霊長類より変異原検出、あるいは、その他のバイオアッセイ等に用いうる細胞株を樹立することである。変異原性の試験には、従来、バクテリアあるいはげっ歯類の細胞が多く用いられてきたが、薬剤その他に対する感受性は生物種によって異なるため、「人間への影響」という観点からはヒト由来の材料を用いることが望ましいが、未だ適当な系は存在していない。霊長類は、げっ歯類に近い原猿からヒトに近縁な類人猿まで百以上もの多種に分化した生物群である。この多様な霊長類を対象として種々の細胞株の糸を樹立することによって、これまでげっ歯類の糸で外挿していた距離を縮め、ヒトに近いもしくはヒトに代わる糸として確立することが可能と考えられる。 研究の経過、成果、および考察 材料の収集と細胞株の樹立は昨年度にひき続きおこなった。樹立した霊長類細胞株のうち、ヒトから見て遠い原猿のキツネザル由来Tリンパ芽球細胞株(LecT)、ガラゴ由来皮膚線維芽細胞、そして近い類人猿のオランウ-タン由来Bリンパ芽球細胞株、ボノボ由来Bリンパ芽球細胞株およびヒトBリンパ芽球細胞株の染色体数のモ-ド、おおよその細胞倍加時間、細胞当りの自然発生染色体異常及びヒト由来の細胞株のみ認められた。 NaFの結果を手がかりに今後は原猿と類人猿との間をうめる旧世界ザルも検索の対象にすると共に、他の環境物質の変異原性について検索を進めたい。
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