研究概要 |
医用材料として実用的に重要であるポリウレタン(PU)の化学構造と細胞の反応の関係についてはまとまったデ-タはほとんどないといってよい。そこで今年度は、PUの原料であるジイソシアナ-ト、ソフトセグメントを種々変えたPU15種類を合成し、それらのフィルムを作製し、昨年度までと同様にして、その上で上皮性の株化細胞Ca.9.22を培養し、細胞の付着性、増殖性を調べた。ジイソシアナ-トとして、ジフェニルメタンジイソシアナ-ト(MDI)、フェニレンジイソシアナ-ト、トリレンジイソシアナ-トを用いたが、この3種から得られるPUに対する細胞の反応はほぼ似たようなものであった。このような芳香族ジイソシアナ-ト及びポリテトラメチレングリコ-ル(PTMG)を用いる範囲内では、細胞からみて性質が大きく異なるものを合成するのは困難であると思われる。 ソフトセグメントには、通常用いられているPTMGのほかに、耐劣化性の点で期待できるポリジメチルシロキサン(PDMS)、1,4-ブタンジオ-ルとチオジェタフ-ルから合成した硫黄を含むポリチオエ-テルも試みた。PDMSを含むPUでは、疎水性のPDMSを導入することにより、それを含まないものに比べて細胞の付着率が半分以下に低下し、細胞を付着しにくくするのに大きな効果が認められた。一方、チオエ-テル結合を導入することにより、細施培養用シ-トとして市販されている対照用試料よりも付着率が大きくなり、細胞を非常によく付着させるような大きな効果が認められた。このチオエ-テル結合をソフトセグメントに含むPUにかかる付着率の大きさは、PUとしては異常ともいえるほどの値であり、また通常の高分子としても例外的に付着率が大きいということができ、細胞が非常に付着しやすい貴重な新しい合成高分子を見い出すことができた。
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