外部環境に応答して構造変化、物質変化(透過性変化)を引き起す刺激応答型ハイドロゲルは、熱のあるときにのみ解熱剤を放出し、熱が下ると放出が直ちに停止するような新しい薬物送達システムを開拓するものである。ポリイソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)は温度変化に対し敏感に応答し、著しい膨潤変化を生じる。本研究ではIPAAmとアルキルメタクリレ-トとの共重合ゲルを合成し、抗炎症剤のインドメタシン透過性および放出性に及ぼす温度変化の影響を調べた。20℃で平衡膨潤に達した共重合ゲルを30℃に変化させると、ゲルは速やかに内部の水を押し出し収縮する。初期の速い変化の後、水の押し出しは遅くなり、1カ月後においても30℃の平衡膨潤値に達しなかった。これは温度変化によってゲル表面が最初に収縮したスキン構造を形成し、この表面全体の密になった層が内部からの水の流出を著しく阻害するためであると考えられた。この収縮過程はアルキル鎖長により異なり、IPAAmとブチルメタクリレ-ト(BMA)共重合ゲルは2〜3時間で8割程度収縮するのに対し、IPAAmとラウリルメタクリレ-ト(LMA)共重合ゲルでは2割程度しか収縮しないことが明らかとなった。このことから、アルキル鎖長が長いほどゲル表面に薄くて密なスキン層ができると考えられた。このようなゲル膜中のインドメタシンの透過を調べると、20℃では大きな透過性を示すのに対し、30℃では完全に透過性が停止することがわかった。とくに30℃〜20℃に温度低下させたとき、薬の透過速度の遅れ時間に及ぼすアルキル鎖長の影響を詳細に調べ、IPAAm-LMA共重合ゲル膜では薄いスキン層の形成のためきわめて速いON-OFF透過制御が可能となった。さらにインドメタシンの放出についても同様の結果が得られ、応答時間の短い完全な薬物のON-OFF制御が実現されることが明らかにした。
|