研究概要 |
〔目的〕我々は分子進化学的立場から、日本人集団におけるαグロビン遺伝子群の組換え型変異の生成機構を探るため、西日本地域650名の末梢血についてDNA多型変異の解析を行なった。〔方法および結果〕白血球DNAを抽出し、EcoRIとBamHIの二重消化を行なった後、サザン法によりαグロビン遺伝子領域の制限酵素切断片長の多型(RFLPs)を調べた。制限酵素地図の解析により、正常αグロビン遺伝子EcoRI/BamHI断片(13.2kb)よりも大きい異常断片(17kb)が認められたことによって、α多重遺伝子(α1、およびα2)の三重化(+α3)を示す組換え変異が証明された。見出だされた三重化遺伝子群配列は、さらにHpaI、Bg1II,SacI消化後、サザン法を用いて、3.7kbの過剰なバンドが証明されることによって確認した。三重化αグロビン遺伝子は10例(0.8%)に認められたが、欠失型αサラセミア遺伝子は見られなかった。αグロビン遺伝子三重化の分子機構を明らかにするため、見出されたα3遺伝子領域(2,132kb)の塩基配列を決定した。その結果、相同染色体(α1、およびα2遺伝子)の不等交差は、α1のcapサイトから数えて-634塩基の間で起こったことが明らかになった。一方、α1の5'側にあるRsaI切断点における多型マ-カ-でのハプロタイプ検索により、集団中のα3遺伝子をもつ染色体の起源は単一のものではなく、2種以上のハプロタイプと連鎖することを明らかにした。(複数起源)〔結語〕ヒト・αグロビン遺伝子(α2およびα1)は、3.7kbの間隔で連鎖しており、互いに類似した塩基配列構造を有するため、不等交差により組換え変異を起こしやすく、この領域では組換え型突然変異率が、単一の遺伝子のそれに比較して高いと推測される。観察されたαグロビン遺伝子の組換え変異の多型は、自然淘汰に中立な変異の偶然的浮動にもとずく現象であろう。
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